2013年04月13日

Missing at TOSU

何かと移り気なこの頃の空模様であるが、今日は朝からほぼ快晴。午後になり少し雲が目立ち始めたが、不意の夕立でもない限り雨の降る心配はないだろう。しかし気温も上がって、日陰はともかく一寸でも陽向を歩くと汗ばんでしまう。だが恐らくこれで漸く平年並の気温に違いない。
心配なのは天気よりもむしろ今朝発生した淡路島の地震だ。寝つきの悪い明け方突然に携帯が鳴り、開くと気象サイトからの一報が。最大震度や規模は18年前の阪神淡路の地震より控え目だが、震度6弱は決して小さい地震ではない。一震による津波の心配はなく今の処死者の報告はない様だが、詳細がわからず気掛かりである。
2年前の3月11日、同じく井上陽水のコンサートを聴く為博多へ向かう際、あの時は移動する列車の中で報を受けたのを思い出した。

井上陽水@鳥栖〜20130413

『井上陽水 LIVE 2013 Missing』

2013年4月13日(土)
鳥栖市民文化会館

開場 17:30
開演 18:00

小島良喜(Piano,Keyboard)
佐藤準(Keyboard)
長田進(Guitar)
高水健司(Bass)
山木秀夫(Drums)

井上陽水(Vo,G,Harmonica)


昨年の全国ツアー『Hello,Good-bye』と同じ顔ぶれによる今季のツアーである。前回は一部の面子に賛否両論湧いた様だが、挫けずに同じ布陣で臨むというのは陽水本人がこのバンドを気に入り自信を持つ表れだろう。未消化な部分の皆無とは云えなかった昨年に比べ、大分音も成熟したかと楽しみな処だ。
開演予定時刻の18時にブザーが鳴り、客席への案内とお願いのアナウンスが流れる。客電が落ちるより早くスタッフに先導されたベースの高水健司が出てきて楽器をセットし、袖の方に軽く合図を送ると消灯と共に他のメンバー、そして井上陽水が登場。向かって左袖から出てくることの多い陽水だが、今回は何故か右袖から。会場の構造の都合だろうか。しかし他のメンバーは左右それぞれ近い袖から出てきたので、側を変えたい何らかの想いが今回はあるのかも知れない。

アルバム『Blue Selection』を彷彿とさせるジャズめかした実在感のある導入、やがて聞き覚えのあるリフが始まり、1曲目は「闇夜の国から」。未だ先行きの見えないこの世の中から放たれた海原へ舟を漕ぎ出そう、というオープニングに相応しい曲だ。行先はわからない。もしかしたら今夜のこの数時間を過ごす箱の中だけに進むべき海路があるのかも知れない。
しかし(レコードではアコースティック・ギターで弾かれる処)強烈な歪みを効かせた長田進のエレキのフレーズに導かれて続く2曲目は「断絶」。辛辣なアンチテーゼを匂わせるが、「どうして悪いのだ 愛していることが いつでもそばにいて 愛していることが」という絶叫にいつもはにかんで語らない陽水の痛切な本音が見え隠れする。近年は弾き語りで歌われることの多い楽曲だが、原曲を倍増しにした様な硬質のバンドサウンドが新鮮である。
3曲目は「心もよう」。ミリオンセラー・アルバム『氷の世界』の売行きを支えたシングル・ヒット・ナンバーで、通俗と云われようとライブでこの曲が聴ける度にワクワク、ドキドキする。
ここまで3曲いずれも初期、ポリドール時代の作品が並んだ処で最初のMCが入る。相変らず身も蓋もないというか、捉えどころのない話し振りだが、文字にしたら「?」と思う様なことでも絶妙な間の取り方、話す抑揚と声の響きについ笑ってしまう。この日は「鳥栖ですから〜」を連呼しつつ、北へ行けば福岡、南へ行くと熊本・鹿児島、西に行けば長崎、東は大分…と延々交通の要衝である点について箇条書きした後で「これだけ云っても出てこない県がひとつある」と。在住の方の名誉の為にも答えは敢えて云わずにおこう。
MCの後は他人に書いた曲から2曲、「ダンスはうまく踊れない」及び「飾りじゃないのよ 涙は」。「ダンス〜」は通常のスイングではなく、8ビートで間を詰める様な歌い方、演奏がユニークである。一方「飾りじゃないのよ 涙は」はほぼ『Blue Selection』のバージョンを踏襲したもの。圧倒的なシャウトより息を抜き呟く、囁く様な歌い方が主になりつつある近年の陽水には『9.5カラット』より此方のアレンジが合う様に感じる。
恐らく1996年に行われたライブハウス・ツアー以来となる「目が覚めたら」は『永遠のシュール』から。そして奥田民生とのユニットで生まれた「手引きのようなもの」と、思いがけぬ日常の隙間を教えられる様なバラードが続く。声の豊かさは健在だが、正直な印象として今夜は高音部の出が余り良くない気がした。不調なのか、ツアー序盤でまだ脂が乗切っていないのか。衰えたかと思えば次にはまた絶好調になったりする人なので、調子の程は憶測でしかわからない。

一旦バンドが退き、ハーモニカを取出しながら椅子に腰掛けて再びMCを入れる:「鳥栖出身の女性がミスインターナショナルに選ばれたそうで」という前置きから弾き語りで「いつのまにか少女は」を。イントロ部分では三連符を細かく刻むギターがまた新鮮だったが、その後は伝統芸能の世界だった(個人的には非常に好きな曲であり、毎回でも聴けたら良いくらいで嬉しいのだが)。
ギターを12弦に持替えながら語りを入れる間にバンドが袖から出揃い、10ccのカバーで「I'm not in love」。ビートルズ或いはサイモン&ガーファンクル以外で海外の曲をライブで取上げるのは異例に思うが、これが実に今の井上陽水に合っていた。
続いて新曲の「キャッホー」という曲を。曲紹介の時、「特に、鳥栖の皆さんの為に」とか「初めて人前で歌う」などと語っていたが、実を云うと事前に或る新曲をツアーのこれまでの公演で披露したという情報を得ており、内心「よく云うよ」とほくそ笑んでいたのだが、いざ曲名と歌を聴いて良い意味で裏切られた。これは、実娘である依布サラサの為に書いた曲だそうで、曲調は「結局雨が降る」や或る意味吉田拓郎に通じる様なシャキシャキした明るさで、歌詞は一部「アジアの純真」を想わせる。だが一番の特徴は、『ユナイテッド・カバー』に収められた「嵐を呼ぶ男」以来の、陽水のオリジナルとしては「桜三月散歩道」以来およそ40年振りの台詞入りという点である。しかもその台詞が博多弁で語られるとなれば、…嘗て客席から「(出身地の)田川弁で喋ってー」と云われて「是非、福岡に行かれたら…」と拒んだ彼に一体、どんな心境の変化があったのか知らないが、先年家族で福岡に移住したとの噂と無関係ではないのかも知れない。
高音部にやや疑問を覚える今夜の陽水だが次の「リバーサイド ホテル」を難なく終え、今回のツアーで最も秀逸な流れ「灰色の指先」のジャズアレンジからよりドラマティックな「バレリーナ」へとプログラムが続く。「バレリーナ」での小島良喜のピアノと陽水の声の絡みはこの日の最良のパートのひとつ。深く暗い湖の底に沈む様な黒く透明な時間の後、「新しいラプソディー」で一気に晴れやかな空へと駆け上がる。
コンサートも終盤を告げる語りと再度の楽曲紹介の後、「ビルの最上階」を緩やかに歌い始める。出だしはメロウで牧歌的ですらある哀調を帯びているが、次第に核心がめくれ上がってゆく。優しげな顔をしたお婆さんがやがて大きな口を開け、牙を剥く童話の様に。
そしてクライマックスへと。今夜は「限りない欲望」が選ばれ謳われる。デビュー間もない若き日の作品だが、本能的欲求と死生観が垣間から覗くシニカルでシリアスな曲。何でこんな曲を彼は書いたのだろう。名曲だが、聴く度霊柩車に遭遇した時の様なリアクションを思わずしてしまう。更に淡々と怖い光景を綴るバラード「積み荷のない船」をさざ波の様に寄せ返しながら、本編は幕を閉じた。

アンコールは3曲。これまでの日程ではPuffyに提供した曲を歌っていたそうだが、この日は「氷の世界」と「夢の中へ」。そしてメンバー紹介の後、「少年時代」を口ずさんで終了。鳥栖の人は控え目なのか淡白なのか、「少年時代」が聴けたらそれで満足した様にアンコールを求める手拍子もあっさりとフェイドアウトした。曲目・曲数は公演毎にきっちり決まっている訳ではなく、客席の強い要望があれば1曲2曲は増えることもあるので、何処かの町の会場の様にもっと暑苦しくねだれば―と思わないでもない。

井上陽水@鳥栖〜20130413

私が井上陽水を聴き始めた30何年前と違い、今はパソコンや携帯端末が普及して何時々々何処其処で行われた公演のセットリスト等知るのが容易な時代である。それはとても便利で私も度々その利器のお世話になるが、反面余所でやって自分の通うライブでやらない曲があるとアレも聴きたい、コレも聴きたいとつい存外の欲が出てしまう。困った弊害である。
20時過ぎには演奏が終了したので、歩いて新鳥栖駅に行き、明日の会場・小倉へと向かった。


本日のセットリストを:

01 闇夜の国から
02 断絶
03 心もよう
04 ダンスはうまく踊れない
05 飾りじゃないのよ 涙は
06 目が覚めたら
07 手引きのようなもの
08 いつのまにか少女は
09 I'm not in love
10 キャッホー
11 リバーサイド ホテル
12 灰色の指先
13 バレリーナ
14 新しいラプソディー
15 ビルの最上階
16 限りない欲望
17 積み荷のない船

アンコール
18 氷の世界
19 夢の中へ
20 少年時代

井上陽水@鳥栖〜20130413


posted by 紫乃薇春 at 22:38 | Comment(0) | 音楽<井上陽水>
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