2012年07月06日

井上陽水 LIVE 2012 Hello,Goodbye at KAGOSHIMA

井上陽水〜20120706
昨日、気がする―と思った蝉の声を、今日ははっきりと聞いた。油蝉だろうか。街でもよく見かけるが、山で生まれたのが早く孵化したのだろう。
まだ7月の上旬で、鳴くには随分早い様だが実際はどうなのだろう。昨年と比べてどうだろう。九州に移り住んで4年近く経つが、未だに覚えられない。
この声を聞けばもう盛夏。だが今日は晴れ間もあるが雨の降り易い空模様。九州は先日漸く奄美の梅雨が明けたばかりで南部も北部もまだ前線の掌中にある。気の早い蝉もいるものだ。それとも、梅雨明けは近いと告げる声なのか。


2012年7月6日(金)
鹿児島市民文化ホール 第一ホール

開場 18:00
開演 18:30

小島良喜(Piano,Keyboard)
佐藤準(Keyboard)
長田進(Guitar)
高水健司(Bass)
山木秀夫(Drums)

井上陽水(Vo,G,Harmonica)


昨年3月の福岡以来の井上陽水コンサートである。当初は先月24日の福岡サンパレス公演に行く予定だったが、自身の手違いによりチケットが取れなかった。非常に残念ではあるが、幸い本日の鹿児島公演に空きがあった為急遽こちらに訪れた。
前年の福岡は正に東日本大震災の起きた当日で、その日は無事歌い終えたがその後予定された関東及び東北の公演は全て中止になった。
その後暫くは歌う気分になれなかったというが、一年経って漸く現場に戻ってきた。いざ歌うとなれば容赦なく、誰よりも本気で臨む彼らしさが伝わってくる。
井上陽水〜20120706
今夜もほぼ定刻通り。開演予定の18時30分にはブザーが鳴り、5分の後緩やかに客電が落ちた。
先に登場したメンバーがやや硬質でアップテンポなアンサンブルを奏で始める。少し遅れて陽水が登場。センターのマイクを囲む様に4台並べられたギターの中からお馴染みのギルドを取り、演奏に加わる。それまでのワンコード主体のアンサンブルからやがて陽水ファンなら聴き覚えのあるコード進行へと移行。最初の曲は「東へ西へ」。
この曲は昨年の福岡ではイントロの後出だしの「昼」だけ歌いかけて突然「ゲンが悪いので」と止めてしまった、いわくつきの曲である。何故止めたのか、ゲンが悪いとは何を指すのか、そして今回改めてセットの1曲目に持ってきた想いは何か。歌詞の一節「ガンバレ みんな ガンバレ」という文句は震災の当時、もし被災者に向けて発せられた言葉だとしたら如何にも配慮を欠いている。実際には被災地から遠い福岡であるが、脳裏にそれがよぎり彼は踏留まったのではないか。震災から1年余りを経て、前を向き新たに生きて行く意志を持った人々への「ガンバレ」は強圧的ではなく、半分は自分自身への鼓舞を込めて響く。
続く「御免」は四国の高知公演で「高知に因んだ曲をやります」と前置きして歌ったそうだが、確かに高知には「ごめん」という地名がある。但し字は「後免」と書く―現在は南国市だったか。
風の様に颯爽と過ぎた「Make-up Shadow」の後、「俺の事務所はCAMP」を歌う。何とも珍しい曲。1982年日比谷野外音楽堂で聴いた記憶があるが、それ以来実に30年振りに日の目を見たのではないか。ただ、ヒット曲となった「リバーサイド ホテル」の当時シングルB面に収められていたので、意外に曲自体は知っている方も多いかと思う。自らの決意表明の曲でもある:

♪〜
俺の仕事はsing & song

と唄う一方で

♪〜
何か伝えてと望まれても
俺のやりたいことは伝えぬこと

と天邪鬼に唄う。これが『招待状のないショー』の頃から、いや根の処はアンドレ・カンドレの時代から常に彼がモットーとしてきた姿勢。今回の「想いを伝えること、届けること」という主旨とは相反する様だが、彼が絶えず抱える葛藤、もしくは矛盾であり、今回はそれを主題としてぶちあげた、そんな感じを受ける。
「鹿児島の皆さんこんばんは」と最初のMCで、唐突に嗄れ声で「××××でごわす」といって笑いを誘う。いや、ウケているから良いが、今時の御当地の人はそんな云い方は滅多にしないのでは?と思っていたら案の定、すぐに「何にでも『ごわす』とつければ良いもんじゃないので」とオチをつけてまたクスクス声のさざ波が起こる。
ここで、「鹿児島おはら節」の一節を口ずさむ。以前福岡で「炭坑節」や「黒田節」を思いつきで唄っていたが、その時と同様の御当地ソングコーナーである。

♪〜
花は霧島 煙草は国分
燃えてあがるは オハラハー 桜島
(ハッ ヨイ ヨイ ヨイヤサット)
桜島には かすみがかかる
わたしゃおはんに オハラハー 気がかかる
(ハッ ヨイ ヨイ ヨイヤサット)

合いの手の「ヨイ ヨイ ヨイヤサ」を妙に、いや実に生き生きと裏声で唄っていたのがとても印象的。この日のベストアクトの一つだと思う。
NHKで放映中の『ブラタモリ』でエンディング・テーマに起用されている「MAP」が続く。何処か南国調のアレンジで、吉田拓郎の「KAHARA」を思い出した。他にも随所に拓郎を想わせる響きがあったのは、ギターに長田進が参加しているからだろうか。彼は長年佐野元春のバンドにいたギタリストだが、音の志向として陽水よりも拓郎に近いのかも知れない。スタジオ・ワークとしては「Power Down」や「Just Fit」で陽水組をサポートしたこともあり、一見荒削りだが閃くソロを聴かせてくれる。そのどちらか、出来れば両方を生で聴きたかったが、残念ながらこの日はやらなかった。
「タイランド ファンタジア」は今年のツアーでは初出かと思っていたら、前日の宮崎で登場済みであった。「自然に飾られて」との差し替えか。前夜のセットリストをよく見たら今夜のプログラムとほぼ同じ。鹿児島は宮崎での曲目から「クレイジーラブ」を除いた形だが、何故1曲減ったのだろう?出来が良くなかったとか、体調が勝れなかったなど理由は色々考えられるが、会場の使用時間の都合等もあるかも知れない。
アルバム『スニーカーダンサー』から「なぜか上海」「海へ来なさい」と夏を感じさせた後、弾き語りのコーナーへ。「最近は(齢の所為か)無くなってゆくもの、失われてゆくものに昔より感じ易くなった」と前置きして2曲。「夏まつり」そして「人生が二度あれば」。今朝聞いた蝉の声が「夏まつり」の歌詞とリンクして、思わぬ郷愁を呼び起こす。この曲は近年陽水の生地・糸田の児童公園(通称・陽水公園)に歌碑が立った際、選ばれた作品でもある。オリジナルのスタジオ録音には風鈴の音以外SEは使用されていないが、蝉の声を加えるのも良い気がする。が、余りにベタ過ぎるか。後年「Why」でヴォーカル・マイクを屋外に置いて録音した際混入したという鈴虫の音が浮かぶ。

そしてこの夜の白眉が訪れた。或る程度古くからの陽水ファンなら誰もが知る通り、彼の最大のルーツはビートルズである。今年のツアーは去るものがあれば新たな出会い、生まれ来るものもある、その想いを上手く表すとしてビートルズの楽曲のタイトルを引用したとのこと。ツアー開始当初はだからと云ってそれを歌うのはねえ…と躊躇ったそうだが、何日目かの公演で出だしをふと口ずさんでみた処思いがけず大好評。以後バンドを加え改めて正式なプログラムになった―「Hello Goodbye」。陽水が本気で歌うビートルズは「Yesterday」や「The Long And Winding Road」「And I Love Her」等々薫り素晴らしい出来を見せたが、当夜の「Hello Goodbye」も全編がベストアクト。
「さんざん酷い曲を書いてきましたが、中には『悪くないんじゃない?』と云われたのもありまして」と自嘲気味に語りながら「リバーサイド ホテル」「とまどうペリカン」「新しいラプソディー」と1980年代に発表した一連のヒット曲を続けて歌う。そして知る人ぞ知る古い名曲「つめたい部屋の世界地図」を取上げた。但しアレンジは90年代にセルフカバーとして発売した『ガイドのいない夜』のものだ。
「最後のニュース」はこの日のもうひとつのベストアクトとなった。ツアーを始める前歌詞を踏まえて「適切ではない気がする」と当初敢えて外していたが、歌い始めたら尋常でない身の入り様。模索する様な歌い出しから徐々にテンションが高まり、最後は感極まる様に完全に1オクターヴ上を歌う。歌うというより絶叫だが、鬼気迫るという次元を超え突抜けてしまった感じがした。被災地でもこの曲を歌った様だが、聴衆の胸にはどの様に響いたであろうか。
「限りない欲望」は深い処でこのツアーの主題にリンクする名曲だが、欲を云えば「少年時代」の前にもう1曲ロック調の曲が欲しかった処。この日は「My House」も「Just Fit」もなく、「氷の世界」はアンコールに回ってしまった為、終盤のボリュームがやや小振りになった感は否めない。加えて「少年時代」の途中で機材トラブルかギターからノイズが生じ、いささか締まらないラストとなってしまった。

アンコールはPuffyに提供した「渚にまつわるエトセトラ」から「氷の世界」「心もよう」「夢の中へ」と、ノリの良い曲を続けて演奏した。「心もよう」はバラードだが、サビが殊に顕著な様に案外アップテンポな曲である。更に欲を云えば最後に「傘がない」を聴きたい処だったが、それはまたの楽しみにしておこう。
序盤PAが定まらないのは毎度のことだが、今夜は特に荒れていた様だ。バンドがまだベストコンディションには程遠いこともあるかも知れない。今夏陽水は少なくとも2つのフェスティバルに参加するそうだが、このバンドで出るならもっと音を磨いておいて欲しい。

今回初めて訪れた鹿児島の地であるが、急ぎ足だった為会場の傍から遠目に桜島を眺めた他は観光もままならず。
しかし、新幹線の開通で長崎県北から市街地まではグンと近くなった。また改めてゆっくり訪ねてみたいものである。

井上陽水〜20120706

01 東へ西へ
02 御免
03 Make-up Shadow
04 俺の事務所はCAMP
05 MAP
06 タイランド ファンタジア
07 なぜか上海
08 海へ来なさい
09 夏まつり
10 人生が二度あれば
11 Hello Goodbye
12 リバーサイド ホテル
13 ジェラシー
14 とまどうペリカン
15 新しいラプソディー
16 最後のニュース
17 つめたい部屋の世界地図
18 限りない欲望
19 少年時代

アンコール
20 渚にまつわるエトセトラ
21 氷の世界
22 心もよう
23 夢の中へ
posted by 紫乃薇春 at 23:10 | Comment(1) | 音楽<井上陽水>
この記事へのコメント
震災の日の福岡コンサートで「東へ西へ」歌うの止めていたんですか・・・被災地へ安易にがんばれって歌えないような、声をかけられないような心情が陽水さんにあったのでしょうね。
相変わらずvivianさんレポ、コンサートの臨場感が伝わってきて楽しかったです。
でもコンサート終わってすぐ帰られたのですか?
鹿児島まで新幹線で結構近いのか・・・今度は観光もゆっくりできるといいですね。
Posted by とんこりん at 2012年07月07日 20:24
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