2006年09月07日

「蜘蛛の巣と謎」

という曲がある。THE WHOのセカンド・アルバム「A Quick One」に収められた数少ないキース=ムーンの作品のひとつだ。この曲はヴォーカルがなく(途中掛け声の様なものが一瞬入ることは入る)、初期のTHE WHOの器楽演奏の特色を風変りな角度から伝える。どちらかと云えば「名曲」よりは「迷曲」或いは「珍曲」の部類に入るかと思うのだが、まるでおもちゃ箱を引繰り返した様な、或いは遊園地の愉快なアトラクションに出くわした様な雰囲気が漂っている。冒頭はバンドの全合奏で親しみ易い旋律を繰返し、中間部はギターとドラムによる掛け合いが主体となる。ここでも主旋律から派生したリズムを交互に繰返すだけだが、初めは緩やかだったのがどんどん速度を増してゆく。単純だが、キースのドラム・ワーク、またピート=タウンジェンドのリズム・ギターの巧みさを垣間見られる処だ。後半はリズムが解体し、音程も無調整な即興じみた展開となるがすぐに再び元の旋律が戻り、最後はジョン=エントウィッスルの吹くホルンだけになり消える様に終る。

キース=ムーンというとそのやたら音数の多いドラムと数々の伝説的奇行がまず思い浮かぶ。それは彼の生前現実としてあったことなので間違ってはいまい。加えて映画『トミー』で性質の悪い従兄弟「ケヴィン」を嵌り役として演じたことで何やら底意地の悪い、恐い奴、というイメージが(少なくとも私の中では)つきまとっていた。アルバム『四重人格』に収録された「Bell Boy」のヴォーカルなど声にもいやらしさが滲み出ていると感じたし、「Who's Next」の裏ジャケットでは隣のロジャー=ダルトリーの横っ面をけたたましい形相で殴り飛ばす様なポーズで写っている(思わず仰反った風なロジャーの表情が何だか情けない)。そうした振舞、表現は彼の個性を際立たせるには充分であり、かつユニークさを秘めているもので、その類稀なドラム演奏とも相俟って私としても決して嫌いではない(むしろ好む)が、知人としてお近付きになるのはいささか遠慮したい気がした。「何をされる(しでかす)かわからない」処が常に彼にはあったに違いない。
だが実際の彼は人一倍甘えん坊で寂しがりやだったという話を聞く。殊にツアー中における異常な行為の多くは時間も環境も束縛され、精神的にも肉体的にも追詰められた状況を慰める為の彼なりの手段であったとも。そして古典的なロックンロールを愛し、やんちゃで愉快で和気藹々と過ごすのが好きだったのだろう。この「蜘蛛の巣と謎」(Cobwebs and Strange)の微笑ましい乱痴気騒ぎも彼の内面を痛切に吐露したものかも知れない。
彼は「限度」という言葉を知らなかった様で、彼のドラムがTHE WHOのアンサンブルの中核をなしていたことは確かだがそのスタイルを終生変えることが出来ず、時として叩き過ぎ、また彼の存命時のTHE WHOにおいて後年はそのスタイルがバンドの曲作りの足枷にすらなってしまった部分もある様だ。彼の死因は「ドラッグの過剰摂取」と云われているが、その内訳は当時医師から処方されていたアルコール中毒の為の薬を「この薬がそんなに効き目があるのなら、沢山飲めばもっと効くだろう」と何十錠もまとめて飲んだ為、らしい。

そんな彼の命日から、今日で28年が経った。
「蜘蛛の巣と謎」〜20060907


posted by 紫乃薇春 at 04:03 | Comment(0) | TrackBack(0) | 音楽<THE WHO>
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