2012年10月11日

『ドキュメント灰野敬二』

先日の台風17号の到来以降、概ね秋晴れの続く九州北部。今日は幾分雲が多めではあるが、空の様子を見る限り雨の降る心配は殆どないだろう。
夕方から伊万里・唐津経由で博多へ。中洲の大洋映画劇場にて10月6日から12日まで、灰野敬二のドキュメンタリー映画『ドキュメント灰野敬二』の上映があるのを観る為だ。嘗ては年間で400本余りの映画を観たりしたこともあるが、ここ数年劇場通いからも遠のいている為緊張しながらも楽しみである。
ドキュメント灰野敬二〜20121011
全国各地で上映され、また今後の予定もある様だが、九州では今の処この博多のみ。出来れば長崎・佐賀辺りまで来て欲しいが、一般的には殆ど知られていないミュージシャンの記録映画の動員数を考えたら消極的、或いは端から考慮されないのも仕方のないことかも知れない。実際この日の大洋劇場の客の入りも、私と相方を含めても10人いるか否かであった。観る側としては隣を気にせず気楽ではあるが、80人は収容出来るスペースでこの人数は正直少し寂しい。

以下、現在も上映中 また今後新たに上映予定のある映画についてネタバレを含む為、まだ御覧になっておらず、今後観覧予定のある方は閲覧御注意を。くれぐれも自己責任にてお願い申し上げる。

ドキュメント灰野敬二〜20121011

映画は冒頭から灰野敬二の主宰するバンド・不失者の轟音鳴り響くライブの場面と、ほぼ全編に亘る灰野さん自身によるナレーション。恐らくはインタビュー形式での受け答えを巧みに散りばめたものだろう。初めに自身の名前を灰野さんなりに解読してみせたのが実に印象的である:

灰:モノ が 燃えた あと に 残る 灰
野:野原の 野
敬:尊敬の 敬
二:漢字の 二

生立ちから音楽との出会い、自ら音楽家を志すまでの経緯を、不失者やソロ等の演奏の様子、またリハーサル風景などを挿みながら赤裸々に語ってゆく。1952年5月3日生まれの今年還暦。千葉県出身であることは知っていたが、就学前に埼玉の川越に移り住んだこと、一時期は吉祥寺に居を構えていたことなど、現在の西東京住いに至る足取り(の一部)は初めて伺った。その佇まいと音楽性からつい「謎」だとか「神秘」に触れる眼で見がちで、サングラスで素顔を遮る様にその日常については閉ざされている風に捉えてしまうが、そうしたイメージはあくまで周りが勝手に作り上げたもので、本人は恐らく到って自然に、気分の赴くままに振舞っているだけなのだろう。「隠すものは何もないよ」と。
幼少時の子ども会での出来事、小学・中学・高校と学歴を進むにつれ味わう所謂「お仕着せ」と自身の素直な見え方、感じ方、考え方との軋轢。なるべくして形成されてゆく人柄、人格。(日本で)一般的にもてはやされる音楽への批判や、灰野敬二やその近隣のミュージシャンを愛聴する人の多くが信望する所謂プログレの大御所に対する否定的な論調等、反骨精神の権化の様である彼が、その実性善説を唱え、誰よりも(反抗の対象となり易い)両親を敬愛する姿が微笑ましい。彼の幼年時代には谷津遊園という複合遊戯施設があり、幼き日の敬二少年は事ある毎にそこの動物園に通いつめ、当時の将来の夢は「動物園の園長さん」だったそうだ。嘗て鬼怒無月・勝井祐二と営んだBlack Stageというユニットでの或る一件から灰野さんの動物園好きは何となく知っていたが、それも幼児期から絶やさぬ嗜好と知る。
インタビュー(ナレーション)では一語一句区切る様に、その都度慎重に言葉を選びながら語っているが、リハーサルにおいては遥かに流暢に、そして明確に自身の意図を共演者、またスタッフに伝える。何をやるにも常にヴィジョンをはっきり描いているのだろう。一見フリー・ジャズの様なロックのバンド・不失者にも曲と呼べるパターンが存在することは多くのファンに知られているが、実演では毎回殆どが即興の様に行われる。が、今回の映画を観る限り、実際はリハの段階で非常に綿密に打合せ、作り込まれているのがわかる。その上でライブでは、稽古場で拵えたものをそのまま持って上がるのではなく、その場で新たに生まれる「もの」「音」を一層大事にしているのだろう。但し、ヴィジョンの骨格はブレないので、共演者のいるステージ(不失者、哀秘謡等)では、他の人が(骨組を忘れて)迷走し始めると忽ち厳しい指摘が飛んでくる。

「不失者」と記された黒いノートを開くと、そこには譜面が描かれている。譜面といっても五線譜ではなく、断片的な仮名文字の列である。それが、カリグラムを彷彿とさす奇天烈な伸縮で並んでいる。「デ」とか「ッ」とか「ギ」などの、擬音とも取れる文字列だが、眺めていると不思議と音像が脳裏に浮かび上がるという、紛れもない譜面である。
既成のお仕着せに疑問を感じ、より自由に、己の赴くままに音を出したいと云いながら、自身の語法で譜面化したヴィジョンを呈示し曲として構築することに矛盾を感じない訳ではないが、サングラス越しにもわかる輝く眼差しで生き生きと語り、また演奏に打込む姿からは彼が如何に音楽が好きであるかが如実に伝わってくる。アカデミックなもの、平均律だの和声やコード進行、リズムや形式はつまらないよ、音はもっと無限に、遥かに細分化出来るし、しかもそのいずれにも寄りかかることなく、そして誰かを真似ることなく音楽を生み出したい。また他の人にも(音楽家を自負するなら)そうであって欲しい。彼の偽らざる本音ではないだろうか。
そんな彼の最大の理解者であり、生来の実践者であり、かけがえのない仲間として灰野敬二は小沢靖の名を挙げる。2008年の2月7日に亡くなってしまったが、嘗て不失者のベーシストを務めた同胞である。「何度も喧嘩や云い合いもしたけれど」と云いつつ小沢さんについて語る灰野さんの口調は実に穏やかで、表情は限りなく優しい。小沢君は体を失ってもここにいる、と自分の胸を指差す。まるで恋女房の様に。今でも一日に一回は小沢さんのことを考えるという。灰野さんにこれだけ想われて、小沢さんも幸せだと思う。
灰野さんに音楽を志させたというドアーズの「When A Music's Over」や、彼が海外に出て行く際に多大な力となったフレッド=フリス等、リスペクトする者達への眼差しはいずれも真摯であり、熱い。

灰野敬二がインタビューを受ける場所は自身の部屋だろうか。骨董めいた調度品がその佇まいに一層雰囲気を添えている。
またカンテレやサーランギ等所蔵する珍しい楽器を紹介する灰野さんの背後には、無数の様々な楽器が並べ置かれている。家中楽器だらけ、という話は随分前に聞いたことがあるが、目の当たりにするのは初めてで興味深い。とにかく、、…九州に移住して以来久しく御無沙汰の灰野敬二の「生」を無性に聴きたくなる、藪蛇な映画であった。
劇場限定でこの『ドキュメント灰野敬二』のサウンドトラックCDの販売が行われる旨が公式サイトにてアナウンスされており、当日購入を楽しみに訪れたが、福岡には来ていないらしく入手出来ず残念。東京(もしくは一部の劇場)限定だったのか、或いは初日で売切れたのか。どなたかこれから観に行かれる方で、もし見かけたら私の分も買置きをお願いしたい処である。
福岡(博多大洋)は12日で終了してしまうが、今後上映予定の劇場は以下の通り:

東京/UPLINK
2012年10月13日(土)〜

大阪/第七藝術劇場
2012年10月20日(土)〜26日(金)

埼玉/川越スカラ座
2012年10月24日(土)〜11月2日(金)

兵庫/元町映画館
2012年11月3日(土)〜16日(金)

以下の劇場は日程未定

神奈川/シネマ ジャック&ベティ
新潟/シネウィンド
石川/シネモンド
京都/みなみ会館

正確な日時等詳細は各劇場にお問合せのこと。

ドキュメント灰野敬二〜20121011

『ドキュメント灰野敬二』
A document film of Keiji HAINO

▼出演:灰野敬二 不失者 高橋幾郎/ナスノミツル/工藤冬里/亀川千代/Ryousuke Kiyasu

▼監督・編集:白尾一博
▼プロデューサー:小林三四郎/福岡俊樹
▼撮影監督:与那覇政之
▼ライブ撮影:冨永昌敬/須藤梨枝子/平岡香純 他
▼ライブ録音:宇波拓
▼音楽:灰野敬二
▼整音・音響効果:藤巻兄将
▼助監督:林誠太郎
▼制作担当:白倉由貴
▼スチール:船木和倖
▼協力:モダーンミュージック/裏窓
▼エディトリアルデザイン:羽良多平吉@EDiX
▼制作:(c)2012『ドキュメント灰野敬二制作委員会』
▼配給:太秦 UZUMASA-DOCUMENT film

公式サイト:
http://www.doc-haino.com/


posted by 紫乃薇春 at 22:33 | Comment(0) | 映画

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